更生保護施設にはどんな人がいるの?
前回は、更生保護施設とは実際どのような施設なのかについてご説明しました。今回は、更生保護施設に入所する人たちについて、もう少し焦点を当ててみたいと思います。
1.更生保護施設の入所対象となる人たち
前回のノート『更生保護施設ってどんなところ?』でも紹介したように、更生保護施設に入所する対象となる人たちは、主に保護観察を受けている人たちと、更生緊急保護を受けている人たちです。つまり、更生保護施設とは、何らかの罪を犯した人たちが、宿泊場所の供与や食事の給与、就業や福祉サービス利用のための援助を受けながら、自立を目指すための施設であると説明いたしました。
2.どのように入所に至るのか
しかしながら、それではあらゆる更生保護施設がどのような対象者でも入所を受け入れているのかというと、決してそうではありません。施設によって受け入れの基準は様々であり、入所している人が変わると、必然的に施設の雰囲気も異なってくるでしょう。たとえば、薬物事犯の受け入れは行っていない施設もありますし、地域との協定により粗暴犯や性犯については受け入れを行っていない施設もあります。逆に、薬物事犯や性犯の受け入れや処遇を強みとしている施設も存在します。
それでは、どのように受け入れの判定を行い、更生保護施設に入所してくるのでしょうか。簡単に、ご説明いたします。
①仮釈放者の場合
実刑となり矯正施設に収容されると、そこを出た後の生活環境を整えるため、どこへ、誰のもとへ帰住するのかという調査を開始します。これを、生活環境の調整といいます。仮釈放を受け自立を目指すためには、適切な帰住先と引受人の存在が必要不可欠です。そこで、親族や知人のもとなどへの帰住を希望した場合には、実際に保護司等が帰住予定地に赴き、引受人と面談するなどして、引受の意思やそれが可能なのかについて、調査を行っています。そこで適当な帰住先と認められ、対象者が仮釈放の(形式的あるいは実質的な)要件を満たした場合に、仮釈放の手続きが進められていくことになります。
一方で、刑事施設に収容されている人のなかには、適切な帰住先や引受人がいない場合があります。そういったときには、更生保護施設を希望することで、仮釈放を受けて自立を目指していくことが可能な場合があります。更生保護施設を希望する場合、『〇〇県の更生保護施設に帰住したい』という希望を出すことができます(施設の指定はできません)。本人が更生保護施設を希望すると、保護観察所を通じて(希望する都道府県内に複数の更生保護施設がある場合にはいずれかの)更生保護施設に生活環境調整の依頼とともに、対象者に関する情報(身上調査書)が送られてくることになります。
生活環境調整の依頼が来ると、更生保護施設は、「受け入れに支障はない」「受け入れに支障がある」「意見を保留する」のいずれかを回答する必要があります。意見を保留する場合は、実際に対象者と面接を行い、受け入れの可否を判断することもできます。前述したように、このときの受け入れ基準というのは、施設によって様々です。また、どのように施設の判定を行うのかについても施設によって違いがあるでしょう。横浜力行舎の場合、書類上のみで受け入れ可とはせず、受け入れ可能性があると思料する場合には必ず面接を行い、今後の方針等について確認を行いながら判定を行っています。
②更生緊急保護の場合
更生緊急保護で入所に至る場合は、急な受け入れとなる場合が大半です。比較的多いケースとしては、検察により起訴猶予処分となる場合や、裁判で罰金や執行猶予の判決を受ける場合で、かつ居所がない等の理由で入所に至るケースです。その場合、早くて数日前、場合によっては当日に、更生緊急保護を受ける見込みの者(あるいは現にいま申請に来ている者)について受け入れを行えないかという依頼が保護観察所から来ることになります。多くの場合、対象者に関する情報はほとんどないに等しい中で、必要に応じて面接を行うなどしながら受け入れの判定を行います。
3.更生保護施設での受け入れの現状
前述のように、更生保護施設の受け入れ基準は施設によって千差万別であり、一概にして説明できるものではありません。一方、制度上多くの施設より受け入れが難しいと判断されやすい対象者が存在するのも事実です。更生保護施設での受け入れの現状と課題について、少しご説明いたします。
まず、受け入れが難しいと判断されやすい方として、粗暴性の高い方が挙げられます。更生保護施設での処遇にはどうしても集団処遇という側面があるため、粗暴性の高い方だと受け入れが難しいというのが正直なところです。また、そのほかにも、罪状等から他害性の高さ(あるいは他者に負の影響を及ぼす可能性の高さ)が感じられる場合には、受け入れを行いづらくなるでしょう。
また、在所可能期間の観点から、受け入れが難しいと判断する場合もあります。更生保護施設で生活することができる期間は、おおむね半年間であると説明されることが多いです。それは、更生緊急保護の法定期間が、身体拘束を解かれてから6か月間とされているからです。更生保護施設を利用するためには、保護観察を受けているか更生緊急保護受けている必要があるとご説明しましたが、仮釈放で(=保護観察を受けて)入所したとしても、たいていの場合仮釈放期間は6か月以内であり、刑期満了後も引き続き施設を利用するためには更生緊急保護の申し出を行うことになります。とすると、身体拘束を解かれてから(=刑事施設を退所してから)半年間の更生緊急保護法定期間が施設利用の期限となるわけです。改善更生を保護するため特に必要があると認められるときには最大でさらに6か月間の延長が可能ですが、特別の事情がない場合には延長は認められません。そのため、更生保護施設としては、半年間で自立することができるよう支援(処遇)計画を組み立てていく必要があるわけです。
さて、この半年間という期間は、みなさまの目にどう映るでしょうか。私の感覚としては、「長いようで非常に短い」というのが正直なところです。たとえば、就労自立を目指す方の場合、はじめの1か月で求職活動を行い内定を得て、2か月目から就労を開始、3か月目になり始めて給料が出て、3~6か月目までの給料で貯蓄を行い、アパートの初期費用や当面の生活資金を貯めなければなりません。このように順調に事が進んだ場合は問題ありませんが、求職活動に時間がかかるなどすると、自立に十分な貯蓄が貯められない可能性があります。また、長期的に稼働可能な就労に至れるよう慎重に求職活動を行いたい場合や、就労を開始したものの自身に合っていないと感じて転職したい場合も、半年間に貯蓄を貯めなければならないことを考えると、安易には考えられないのが現状です。その結果、何とか半年間は頑張って就労に励み貯蓄を行って自立したものの、施設退所後にすぐ仕事を辞めて、そこから生活が崩れてしまった方などをお見受けすることもあり、胸をつんざく思いです。
さらに、支援(処遇)が容易ではないとされるのが、高齢の方や障がいをお持ちの方といった、就労が難しい方たちです。上記のように、更生保護施設では半年以内に就労を行い、貯蓄を行って就労自立を目指す方が多いです。貯蓄が難しい場合でも、就労先に会社寮などがあり、そちらに退所される方もいらっしゃいます。一方で、就労が難しいとなると、退所の見通しを立てることが困難な場合があります。高齢や障がいを理由として就労が難しく、年金等の収入もないとなると、貯蓄を行うことができません。とすると、最終的には生活保護に繋ぐことしかできない、などといった状況になってしまう場合があるのです(更生保護施設入所中は、原則的に生活保護の生活扶助を受給することはできません)。あるいは、高齢者施設や福祉施設等に繋ぐ、ということも考えられます。しかしその場合も、対象者の入経歴等を理由に調整が円滑に進まないことも少なくはありません。また、たとえば今回初めて精神科を受診し今後手帳を取得してグループホームを目指したい場合などには、手帳用の診断書を作成してもらうまでにまず半年(診断書を作成してもらうためには初診日から半年経過している必要がある)、診断書を受け取って手帳の申請を行い完成するまでに2~3か月かかることも普通であり、そこからグループホームの調整をはじめても、在所可能期間が十分でないことがあり得ます。
このように、就労が難しい方たちを受け入れて支援することは、退所の見通しが立てられない可能性が比較的高いことから、相対的に容易ではありません。そのため、施設によっては、「高齢で稼働困難な場合は受入不可」「障害者手帳を持っている場合は受入不可」といった風に、就労が難しいケースについては基本的に受け入れを行わないという施設もあり、その数は決して少なくはないと思います。実際、当施設では受け入れできないような難しいケースでもどんどん積極的に受け入れている東京のとある更生保護施設の方に、それでも不可にするケースとはいったいどのようなケースなのか? と質問したところ、「障害者手帳を持ってたら、まず受けないですね」と返答を得たことがあります。責任をもって支援を行えない以上、安易に受け入れを行えないのは当然のことです。そうすると、現状の制度では就労が難しい方たちが仮釈放に至れず、取り残されやすい可能性があるのです。
4.横浜力行舎での取り組み
当施設では、社会福祉法人幼年保護会が運営する更生施設『甲突寮』を同一敷地内に併設しており、同じ職員によって一体的な支援を行っています。そのため、高齢や障がいをお持ちですぐの就労が難しいときでも、必要に応じて甲突寮へ移管を行うことで更生保護施設の法定期間に縛られずに支援を行うことができます。移管を行う際には、ご本人としっかりと相談して今後の方針を考えていき、また、甲突寮への措置機関となる福祉事務所と綿密に相談を行っております。このように、ご本人の希望を尊重しつつ必要に応じて息の長い支援を実施できる強みから、横浜力行舎では、在所可能期間の制限に縛られず、高齢の方や障がいをお持ちの方、その他早期就労にそぐわない方についても積極的に受け入れを行っています。詳しくお知りになりたい方は、甲突寮などとの連携のページを是非ご参照ください。