更生保護施設と医療支援~済生会系列病院との関わり~

10月末、済生会神奈川県病院の医師、看護師、相談室のみなさまなどにお越しいただき、入所者へ対するインフルエンザの予防接種を行っていただきました。
当施設へ足を運んでいただいたのみならず、接種に係る費用等も一切をご負担いただき、厚いご支援に感謝してもしきれません。
当日は見事なプロの手さばきで、丁寧でありつつもあっという間にみなさん接種していただくことができました。
調整の段階から(日ごろから、そして今回も)大変お世話になった(なっている)地域交流室等でご活躍されるソーシャルワーカーさんからは「少しでも地域貢献ができれば」とありがたいお言葉をいいただきました。そうしたみなさまの想いに応えられるよう邁進していかねば、と改めて気が引き締まりました。


さて、今回は、そんな更生保護施設と医療の関係性について、済生会系列病院さんとの関りも交えながら、ご説明していきます。

1.更生保護施設入所者への医療の必要性

さて、そもそも更生保護施設への入所者の中に、医療を必要とする人たちはどれくらいいるのでしょうか? これは、施設によって大きく違うかと思いますので、更生保護施設一般的にどうか、と論じることはできません。ここでは、当施設の状況をもとに、ご説明したいと思います。

当施設は、高齢の方や障がいをお持ちの方を積極的に受け入れている『指定更生保護施設』という種類の更生保護施設です。その影響もあり、当施設の入所者は何らかの事情により医療機関への通院を必要としている人がほとんどです。何科への通院を必要としているかについては、その時期にどのような方が多く入所されているかにもよります。たとえば、高齢の方が多く入所されているときには内科への通院が必要な方が多くなりますし、障がいをお持ちの方が多く入所されているときには精神科への通院が必要な方が多くなります。昨年から今年にかけてのとある時期を切り取ってみてみると、入所者の約8割の方がなんらかの事情で通院を行っており、うち3割の方が内科への通院を、8割の方が精神科への通院をしていました。受診を必要とする疾患も様々です。これまでには、内科では高血圧や糖尿病、リウマチなどで受診する方がいらっしゃったり、精神科ではうつ病や双極性障害、統合失調症、ADHDやASDといった発達障害などで受診する方がいらっしゃいました。

このように通院を必要とする方は、当施設へ入所する前から医療を必要としていた方が多いですが、全員が全員ではありません。たとえば、逮捕されて警察署や刑務所での検査によって治療の必要な病気が見つかったケースも少なくありませんし、過去には通院していたが何らかの事情(お金がなくなったや面倒で行かなくなったなど)で通院を中断していた方も多くいらっしゃいます。また、これまで全く通院歴はないものの、当施設入所前の面接等で医療機関受診の必要性を職員が感じ、ご本人の受診意思を確認したうえで、当施設入所後に通院を開始する場合もあります。入所される方の中には、積極的に医療機関への受診を行いたいと考えている方もいらっしゃいますが、「行った方がいいと言われるなら行く」くらいの受診意思の方も少なくありません。体や心の不調がうまくいかなかった出来事に少なからず影響していると思われる一方で、ご本人はその自覚がなかったり、そう感じていなかったりする場合です。しかしながら、安定した生活のためには、体のことにせよ心のことにせよ、健康を保っていくことが必要不可欠です。そのために施設職員は入所者のみなさまの日々の様子を確認し、必要に応じて受診の動機づけをはかったり、受診の調整や同行を行ったりしていく必要があるのです。

2.更生保護施設での医療支援の現状

では、このように医療を必要とする方への支援は、どのように行われているのでしょうか。
まず、更生保護制度の中には、基本的に医療機関受診のための金銭支援の制度はありません。更生保護法第58条の補導援護に関する項や更生保護法第85条の更生緊急保護に関する項には医療が必要な者に対してそれを受けることを助ける旨が明記されていますが、だからといって、それを根拠にして無償で(あるいは更生保護制度の費用負担で)受診ができるわけではありません。あくまでも、金銭面については、他の制度を用いながら受診をはかっていくことになります。

当施設では、入所者の医療支援を行う場合、主に以下の三通りの方法で行っています。
ひとつめは、自費での受診です。これは一般的な方法と同じように、国民健康保険や健康保険(あるいは後期高齢者医療保険など)を用いて、3割負担は自費にて受診を行うというものです。主に、受診するだけの十分なお金がある方の場合に行います。メリットとしては、一般的な受診の仕方ですから、病院も好きに選ぶことができますし、ご本人が自由に医療を選択することができる点です。一方で、そもそも更生保護施設に入所する方は、特に入所時にはお金をほとんど持っていないことが少なくありません。そういった方には、そもそもお金がない以上受診することができず、別の方法を考える必要があります。

ふたつめは、生活保護の医療扶助単給での受診です。更生保護施設では一般的に、生活保護を受給することができません。それは、更生保護施設での生活中はおおむね衣食住が担保されており、生活保護における生活扶助や住宅扶助を受給しなくても最低限度の生活を送ることが可能だと考えられれているからです(1)。しかしながら、上記のように更生保護制度の中には医療機関受診のための金銭支援制度が存在しないことから、生活保護のうちの医療扶助については、それのみを単給という形で受給することができるというのが一般的でしょう。この場合、生活保護の申請を行い、医療扶助が決定されれば、生活保護の指定医療機関のみに限られはしますが、ご本人の費用負担はなく全額を生活保護の費用負担で(自立支援医療などの他制度による支弁がある場合は除きます)医療を受けることができます。一方で、利用が難しい場合もないわけではありません。まず、生活保護を受給するという性質上、当然ですがお金のある方は利用できません。現にいまお金がない方であれば受給することはできるでしょうが、その後就労などで収入が入ってくるようになると、医療扶助(生活保護)は廃止になるでしょう。また、受給のためには、生活保護申請やその後の収入申告なども行っていく必要があり、多少の事務的な手間が(施設や本人と福祉事務所の双方に)生じます。そのため、今後収入の入ってくる見込みの高い方の場合、煩雑な手続きが増えるデメリットが多く、なじみにくいと言えるでしょう。さらに、生活保護という制度自体に忌避感情を持つ方も中にはいらっしゃり、そうした制度を利用しての受診となると否定的に考える方も中にはいらっしゃいます。とすると、「現時点ではまったくお金がない。しかし、どうしても早急に受診する必要がある」という場合などには利用することも検討できないわけではありませんが、利用にあたっての心理的ハードルは多少高いといえるかもしれません。また、生活保護の申請から決定までは多少時間がかかるのが普通です。病状や緊急性によっては、生活保護申請中でも福祉事務所と病院にて連絡を取り合っていただくなどにより生活保護決定前の受診が可能な場合もありますが、原則的には生活保護が決定してからの受診となると思われます。とすると、後述するように、刑事施設出所時には十分な量の薬を持っていないことが多いことに鑑みると、そのニーズを満たすような利用の仕方は難しい場合もあるといえるでしょう。

さて、このような場合に大変ありがたく活用させていただいているのが、無料低額診療での受診です。無料低額診療の詳細については割愛させていただきますが、簡単に言うと、経済的に困難な事情がある方について、無料または低額な料金で診療を受けられる制度のことであり、一部の医療機関にて実施されています。無料低額診療を行う医療機関にも税制優遇などのメリットはあるものの、無料での診療を受け入れるのには大いにリスクもあると考えられ、受け入れには慎重になるのが当然でしょう。そんな中で、いつも快く受け入れを行ってくださり、無料での診療を受けさせてくださっている医療機関のひとつが、済生会系列の病院です。
当施設との関りが特に深いのが、『済生会横浜市東部病院』さん、『済生会横浜市南部病院』さん、そして冒頭のインフルエンザワクチン接種の話にも出てきた『済生会神奈川県病院』さんです。主に、精神疾患をお持ちの方の通院の際には東部病院さんへ、内科疾患をお持ちの方の通院の際には県病院さんへ、比較的複雑な治療が必要な疾患(指定難病など)をお持ちの方の通院の際には南部病院さんへ、お願いさせていただいております。
大変ありがたい点のひとつが、当施設在所中は基本的にずっと、無料(全額免除)で診療を受けさせていただけている、という点です。先ほどご説明したように、生活保護の医療扶助では、お金がない場合は受給することができるが受診できるだけの手持ち金があると利用は難しく、また、受給開始後であってもその後就労収入などで受診が可能なようになると医療扶助の受給はできなくなります。そうなると、手持ち金があったり貯蓄ができた場合には、そのお金から医療機関を受診するしかなくなってきます。しかし、原則半年間という期間の定められた更生保護施設では、就労貯蓄自立を目指す場合、1円でも多く貯蓄を増やすことが自立への手がかりになります。その点、無料低額診療で済生会系列病院へ受診させていただく中では、そのあと就労収入が入ってきてある程度の貯蓄ができてきたとしても、「医療費かかっちゃったらお金貯まりづらいですもんね」とご理解くださり、多くの場合に施設退所までは引き続き無料での診療を受けさせてくださっています。薬についても、処方が必要な場合には院内処方という形をとることで、薬剤費も全額免除でご対応いただけています。それにより、就労自立を目指す利用者も安心して貯蓄を励行することができ、スムーズな貯蓄と自立を行っていくことに寄与してくださっています。また、生活保護ではないためスティグマも比較的少なく、「無料で診てくださる病院があるので、受診してみませんか」と話すと、大きな抵抗感はなく受診を受け入れてくださる方がほとんどです。さらに、早期受診が望ましい場合には、(多くの場合、月内に国民健康保険証の提出ができることが条件とはなりますが)直近での受診調整を行ってくださり、緊急を要する場合などには、お電話にて相談を行った翌日には受診をさせていただく……ということも多々あります。本当に日ごろから当施設の入所者の特性やニーズについてご理解くださっているのだと実感し、頭が上がらない想いであります。
無料低額診療をお願いする場合は、お電話での事前調整を行ったうえで、(少なくとも初診から複数回は)施設職員が付き添い、同行にて受診を行っています。必要な情報を正確に伝達し、また、可能な限り病院への負担を減らすことができれば、と考えています。
無料低額診療では、実施している医療機関でないと利用できないことから、施設や退所後の希望生活地から遠方となることが多く、施設退所時には地域の医療機関へ転院という形をとることがほとんどです。転院によって、施設退所後にまた一からご本人と医師が情報を共有して信頼関係を構築していかなければならないというデメリットも存在はしますが、それを踏まえても補って余るメリットがあり、積極的に活用させていただいているのが現状です。

なお、社会復帰や自立のために金品が必要な被保護者に対して給付されるものについて、更生援助金と呼ばれるものがあります。たとえば、求職活動を行うための交通費がない場合などに給付いただけるか保護観察所へ相談を行うことがあります。これを活用して受診を行うことも全く考えられないわけではないのですが、給付いただける金額的に多くの場合1~2回分の受診料をまかなうのが限界であり、特別な事情がない限り継続的に更生援助金を給付いただくことはできないため、更生援助金のみでの継続的な医療支援は現実的ではありません(通院に係る交通費分としてなどであれば十分に活用が可能です)。

3.更生保護施設での医療支援における難しさ

主に上記のような方法で、当施設では入所者に対して医療支援を行っております。最後に、そうした支援の中で難しさを感じることについて少し考えてみたいと思います。

更生保護施設での医療支援において、特に難しさを感じることが、情報共有についてです。更生保護施設への入所者は、当該更生保護施設のある地域にもともと住んでいた方だけではなく、全国から様々な方が入所されています。そのため、施設入所後に初めて医療機関にかかる方だけでなく、過去に通院歴のある方であっても、これまで通院していた医療機関が遠方となることから、施設の近医にて初診扱いで受診することが少なくありません。とすると、過去の経過や現在の病状についての情報提供が非常に大切になってきます。このとき、情報源として考えられるものが、大きくわけて3つあります。

1つめは、過去に通院していた医療機関からの情報提供(書)です。これらを用意するためには、施設へ入所後に該当の医療機関や福祉事務所へ照会を行うことになります(必要に応じて保護観察所より照会を行っていただくことがあります)。過去に生活保護などの福祉を利用していた方は、その際の記録なども同様に情報源となります。しかし、昨今では個人情報保護の観点から、特に福祉事務所への照会には時間がかかることが多いです。また、そもそも過去に医療機関受診や福祉利用のない方については、この方法で情報を得ることはできません。

2つめは、刑事施設の医務課からの情報提供書等です。刑事施設内で医療にかかっている場合、その内容や服薬情報について、情報提供書をいただける場合があります。実際に当施設へ入所後にはじめていく病院へかかる場合には、刑事施設からの情報提供書を持参し、受診することがほとんです。しかしながら、刑事施設からの情報提供書は、その内容が十分とは言えないことが多いのが現状です。多くの場合、刑事施設で治療していた疾患名と服薬情報が記載されているのにとどまり、治療経過などの詳細な情報は記載がありません。場合によっては、「服薬情報提供書」という名前で、服薬情報のみしか記載がないものを持参してくることもあります。となると、結局はじめていく病院へかかった際には本人が自身で経過について説明するしかなく、十分な情報の引継ぎが難しい場合が少なくありません。

3つめは、当施設でご本人から聞き取った情報です。上記2つでは不十分な場合は、この方法によって情報を集め、提供するしかありません。一方で、医師の専門的な知見による情報は得られないため、情報は不十分になりがちです。また、高齢の方や障がいをお持ちの方の中には、自身の治療状況について把握が難しい方も少なからず存在し、確実な情報提供ができない場合もあります。

このように、更生保護施設入所者の過去の病状について正確な情報共有を行うことは難しく、場合によっては、ほぼ一からの受診となることも少なくありません。一方で、更生保護施設の在籍可能期間はおおむね半年間であり、たとえばその間に障害福祉サービスや手帳の取得などを行いたい場合、いちからの受診となると利用や取得までに時間がかかってしまうため、過去の記録の存在は非常に重要です。より円滑な情報提供ができるよう、各関係機関の持つ情報を(本人の意思に反しない範囲で)有機的に連携していけるような体制があれば、より充実した支援が行えるようになるかもしれません。

(1) この点については、議論の余地があるとも考えられています。つまり、更生保護施設入所中は画一的に生活扶助(食費や衣類購入費、日用品購入費などの生活するのに必要なお金)は受給できないと考えるのではなく、更生保護制度では足りない部分を生活扶助で補完しなければ最低限度の生活には足りないと考える視点があります。実際、施設にて更生緊急保護を受けていることを理由として併給していた生活保護(生活扶助)が廃止となったケースについて、更生緊急保護のみでは生活需要が満たされないとの判断から廃止の決定を取り消す判決が出たことがあります(千葉地裁平成29年(行ウ)第16号)。そこでは、更生緊急保護では食事や住居の確保はできても、日用品の購入需要などは満たすことができない点が勘案されたようです。更生保護施設と生活保護の関わりのついては、今後も注視して考えていくことが必要そうです。

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