更生保護施設ってどんなところ?
更生保護施設という言葉を聞いたことがある方が、どれくらいいらっしゃるでしょうか?
普段生活していて耳にすることは少なく、実態がよく分からないという方も少なくないのではないかと思います。
今回はそんな更生保護施設について、少しだけご紹介してみようと思います。
1.更生保護施設とは
更生保護施設とは、いったいどのような施設なのでしょうか。法務省のホームページでは、更生保護施設は「矯正施設から出所・出院した人や保護観察中の人で、身寄りがなく、帰るべき住居がないことや、現在住んでいるところでは更生が妨げられるおそれがあるなどの理由で、直ちに自立更生することが困難な人に対して、一定期間、宿泊場所や食事を提供する民間の施設」であると説明されています(1)。また、「宿泊場所や食事の提供を行うだけでなく、保護している期間、必要な支援などを行い、自立を援助することで、その再犯や再非行の防止に貢献しています」と続けられています。つまり、更生保護施設とは、罪を犯した人等を対象とし、一定の期間寝るところや食べるものを提供して、さらに自立のために必要な支援を行う施設である、と言えそうです。
令和5年8月現在では、更生保護施設は全国に103施設あるとされています。そのほとんどが更生保護法人によって運営されており、すべて民間の施設です。そのうち男子施設が88施設で男女施設が8施設、女子施設は7施設となっており、男子の受け入れを行っている施設が圧倒的に多くなっています。また、少年及び成人施設が83施設、成人施設が18施設、少年施設が2施設となっています(ちなみに横浜力行舎は成人男性のみの施設です)。
更生保護施設のはじまりは、明治21年にまで遡ります。篤志家であった金原明善らによって設立された「静岡県出獄人保護会社」がその源流であるとされ、以降様々な篤志家たちによって釈放者保護団体は設立されていきます。その後、様々な法整備等によってこうした更生保護事業は国の刑事政策の中に取り込まれていきますが、篤志家たちによってはじまったという民間だからこその強みは、現在でも色濃く残っているといえます。そのため、基本的な処遇(支援)内容は共通していても、施設の雰囲気や実施しているプログラム、あるいは得意とする対象者層などについては施設によって千差万別です。一方、そのように様々な特色を持つ施設同士の有機的な連携については、これからますます発展の余地があると言えるかもしれません。
更生保護施設には、施設長、補導主任、補導員、調理員などといった職員がおかれています。また、専門資格を持つ職員の配置も進んでおり、高齢や障がいを持つ方を積極的に受け入れ福祉サービスの調整などを行う「指定更生保護施設」には福祉職員が、薬物依存がある対象者の回復に重点的な処遇を行う「薬物処遇重点実施更生保護施設」には薬物処遇専門職員がおかれています。さらに、最近では施設を退所したあとも継続的な支援を行うために訪問支援職員をおいて訪問支援事業を行っている施設もあります。このように、更生保護施設ではさまざまな専門的知見を持つ職員の配置が活発化しており、処遇力の強化に努められています。
一方で、更生保護施設職員の特徴として、年齢層が高い場合が多いこともあげられます。これは、主に経営上の理由やなり手不足などから矯正・保護官署を退官した方が更生保護施設にて処遇に当たってくださっていることが少なくないからです。幸い、当施設では20代~50代の幅広い年代の職員が処遇を行っていますが、施設によっては、ほとんどが高齢の職員という場合も少なくないようです。矯正や更生保護の知見に富んでおり頼もしさを感じる一方、多様な入所者に対応するため、幅広い年代層の職員の獲得もますます求められてくるのかもしれません。
2.どんな人がやってくるのか?
前述のように、更生保護施設にやってくる人は罪を犯した人等です。では、もう少し詳しく見ていきましょう。
更生保護施設の入所者は、主に保護観察を受けている人と更生緊急保護を受けている人に二分されます。
保護観察とは、「犯罪をした人または非行のある少年が、社会の中で更生するように、保護観察官及び保護司による指導と支援を行うもの」です(2)。これを受ける対象の人には、主に
①家庭裁判所腕保護観察処分を受けた人
②少年院を仮退院になった人
③刑事施設から仮釈放になった人
④刑の執行を猶予され保護観察に付された人
といった人たちがいます。
では、こうした人たちがみんな更生保護施設に来るのかというと、そうではありません。多くの場合、①~④といった人たちのうち、現在住むところがなかったり頼れる人がいなかったり、あるいは現在の環境では自立更生することが難しい人が入所を希望した場合に入所することになります。
一方更生緊急保護とは、保護観察とは違い、本人の申し立てによって開始されるものです。
更生緊急保護を受けている人には、たとえば下記のような人がいます。
・刑事施設を満期出所した人(すでに満期を迎えた人)
・刑の執行猶予を受けた人(いわゆる単純猶予の人)
・起訴猶予処分となり身体拘束を解かれた人
・罰金刑の言い渡しを受けた人 など
仮釈放になった人や保護観察付執行猶予を受けた人は必ず保護観察に付されるため、必要な指導や支援を受けながら社会復帰を目指していくことになりますが、満期釈放になった人や起訴猶予処分を受けた人などについては保護観察が付されることはないため、良くも悪くも刑事司法上は自由の身となります。しかし、頼れる人がいなかったり公的サービスが今すぐに受けられない人からすると「突然放り出される」ような状況となり、生活を建て直すことが困難な場合があります。そういったときに、保護観察所に申し出ることで援助を受けることができるのが更生緊急保護という制度です。更生緊急保護の内容は多岐にわたりますが、たとえば、宿泊場所の供与や食事の給与、就業又は生活援助のための金品の給与・貸与、就労援助などがあります。なお、更生緊急保護によって更生保護施設で生活することのできる期間は、原則的に身体拘束を解かれてから6か月間です(改善更生を保護するため特に必要があると認められるときには最大でさらに6か月間の延長が可能です)。
3.どんな生活を送っているのか?
更生保護施設での過ごし方は、退所後にどのような生活をイメージしているのかや、更生保護施設でのプログラムなどによっても変わってくるため、多種多様です。たとえば、就労自立を目指す人であれば、自身であるいは補導員や保護観察所から支援を受けながら仕事に就き、自立資金を貯めて自立を目指します。あるいは、グループホームや高齢者施設といった福祉サービスの利用を希望する人であれば、必要に応じて就労等にも励みながら、福祉制度を利用するための手続等を行っていきます。そうした生活を送りながら、職員や他入所者とのやり取りを通して適切なコミュニケーションを学んだり、適切な金銭管理の方法について助言を受けたり、必要な受診を行うため通院の調整を行ったりして、自立を目指していきます。
また、最近では特定の行動様式や思考パターンがあること、あるいは依存症の影響などによって犯罪から離脱することが難しくなっている場合があることに注目が集まっています。そこで、更生保護施設においても「特定補導」と呼ばれる特定の犯罪的傾向を改善するための働きかけが行われるようになり、施設の特色に応じた様々なプログラムが行われています。
(1)https://www.moj.go.jp/hogo1/kouseihogoshinkou/hogo_hogo10-01.html
(2)https://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho04_00040.html